機能を満たす技術
C-6 材料技術
材料として要求される特性
ピストンリング本体を構成する材料には、長期間に亘り厳しい条件化で使われても、次のような機能を維持できる材質が求められています。
- 強靱性
- 爆発の圧力を受けたり、たたかれたりしても壊れないこと
- 弾性
- 合い口が閉じられた状態でピストンリング自身、シリンダー壁に向けてバネのように面圧を及ぼすこと
- 耐食性
- 燃焼ガスに接しても長期的に腐食摩耗などの変化が少ないこと
- 表面改質特性
- 良い品質の安定した皮膜が付けられること
- 軽量
- 猛烈なスピードでの往復運動時にエネルギーロスを少なくさせること
- 長寿命
- 熱に対して、上記のすべての特性が安定して保持できて、持続すること
鋳鉄からスチールへ
ピストンリングの材料・材質は以前は鋳鉄(鋳物)が中心でした。しかし、今ではエンジン性能の高度化にともなう厳しい要求に応えるため、スチール(鋼)製の材料へと進化しています。
たとえば、
- 薄幅・軽量化に耐える高強度や高靱性を持ち、
- 熱ヘタリに強い耐熱性がある材料で、
- 摩擦抵抗を減らす低フリクションで、かつ長寿命の皮膜の形成しやすい材質、などのエンジンからの要求が、材料の高度化を求めているのです。
鋳鉄とスチールの特性比較をしてみましょう。
材料 | 引張り強さ (MPa) |
標準弾性率 (GPa) |
かたさ (HV) |
主要化学成分(%) | 用途例 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
C | Sl | Mn | Cr | Mo | P | S | Other | |||||
SP-1 | 1,370< | 200 | 400~550 | 0.74~0.9 | 0.35< | 0.6> | - | - | 0.03> | 0.03> | - | リックベント(レール) ディーゼルベント・M(コイル) |
SP-2 | 1,470< | 〃 | 450~570 | 0.5~0.8 | 1.2~1.6 | 0.5~0.8 | 0.5~0.8 | - | - | 〃 | Cu 0.2> |
高性能圧力リング プレートエキスパンダ |
SP-3 | 1,130< | 215 | 320~420 | 0.8~0.95 | 1.0> | 1.0> | 17~18 | 0.8~1.5 | - | 〃 | V0.05~0.15 | 特殊仕様圧力リング ディーゼルベントM・リックベント用レール |
材料 | 標準弾性率 (GPa) |
標準抗折力 (MPa) |
かたさ | 主要化学成分 (%) | 用途例 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
T.C. | Sl | Mn | Cr | Cu | P | S | Other | |||||
RIK-20 (>φ100) |
167 | 981< | HRB 100~110 |
3.5~4.2 | 2.2~3.4 | 0.2~0.8 | - | - | 0.2> | 0.02> | - | 小型高速機関のクロムめっき付き1stリング |
RIK-20 (φ100~200) |
157 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | - | - | 〃 | 〃 | - | |
RIK-20A (>φ100) |
167 | 〃 | HRC 25~38 |
〃 | 〃 | 〃 | - | - | 〃 | 〃 | - | 小型高速機関(ディーゼル含む)のクロムめっき付き1stリング |
RIK-20A (φ100~200) |
157 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | - | - | 〃 | 〃 | - |
- 強度
- ピストン溝の中で、上下にたたかれる力を受けるため、強度が高いことが望まれます。鋳鉄材料は高級なグレードであっても、スチール(鋼)材には及びません。
- 熱ヘタリ
- いつまでも張力を維持しなければなりません。200℃程度の雰囲気に於けるクリープ強度(リングでは「熱ヘタリ性」と呼んだりする)も差があります。
- 弾性率
- 張力を出すバネの基になる特性です。鋳鉄が157~167Mpaであるのに対し、スチール材は200~215Mpaと大きいため設計に有利になります。
- 耐食性及び表面改質特性
- 母材の耐食性も必要ですが、表面処理皮膜の「形成しやすさ」も重要なポイントになります。たくさんの表面処理技術を持っていますので、適切な表面改質が形成される材質が求められます。